■事例集No.2  中学3年女子 〜屁理屈ばかり言う?娘と家庭での口論が絶えない〜  
                                           (H17.6.19 会場:小山市ロブレ6F生涯学習センター)


事例2 中学3年女子(通常学級のみ)
           
診断名広汎性発達障害(アスペルガー/高機能自閉症)



≪課題≫(特徴) 〜相談内容:母親記述〜


●ある単元だけが、ぽかっと出来ない。全般的な成績は、受験目的の進学中学にて中位置。
●カレンダーが読めない(努力すれば読める)。
●新聞のTV欄がパッと読めない(努力すれば読める)。
●言葉が適切に使えない(卵を開ける、行くを『来る』、右を『左』など)
●レタスをキャベツ、白菜もキャベツ、八宝菜をチンゲンサイ、しじみをチヂミ等々言う。
●ちょっとした言葉の言い回しや言葉(「楽観的」・「悲観的」などの言葉)などがわからず、いちいち聞かれるので疲れる。(ちなみに、楽観的は落ちてくる感じがするから、悪い意味だと思っていた。)
●話し掛けると、今言った言葉の前の言葉を言えなどと言う。今いった言葉の前の言葉は間違っているから、直せなどと言うが、すでに私は忘れている。
●今、言ったのはどうしてそう言ったのか?その時の状況は#$"・・だから、%&'・・という言葉を遣うべきじゃないのか?などと質問攻めにされる。
●レストランでメニューを決める時、半ライスはどれくらい?カレーってどんな味?など、自分で想像すればいいことを私に全部聞く。
●TV番組で、何度もテロップで説明してあり小学生でも理解できるレベルでも、ギャグやコメディのカラクリを理解できない。説明すると、そんな訳ないと言い張る。やっと分ると、自分はテロップは見てなかったと言い張り、"理解できない"という事実を認めようとしない。
●夕食後片付けろと言うと、『何を?』と聞き返される。そんなことも分らないのかと怒られると、ぼーっとしていたからだと言い訳し、分らないことを認めない。
●心に考えたことを言ったつもりになっているらしく、言ったはずだと言い張る。
●咳が出ているから、親心でトローチを渡すと『トローチは飴か薬か?』『年齢が○歳だとダメだから半分に割ると、あと半分はどうするのか?』など、うるさくなる。
●レンタルCDを返す日にちが袋の表にでかでかと書いてあるのに、それを読まずに私にしつこく聞く
●掃除機のコードはボタンを押せば全部引っ込むと思っているから、引っ込まないと壊れていると大騒ぎする。自分で工夫しない。ズボンやカバンのベルトは見れば仕組みなど簡単に分るはずなのに、出来ない。
●食器洗いや野菜洗いが出来ず(どこまで洗えば汚れが落ちるのかで迷うため)、神経を遣っているらしい。(これは自分で決めたらしく、レタス一枚につき30秒としたらしい)
●携帯から電話をかけてきて、運転中で出られず、こちらからかけ直すと『なぁに?』と言われる。
●家猫が姿を現さないのでどこかのドアに閉じ込められたかも?と思い、『あそこのドア、閉めた?』と長女に聞くと『今は猫の話をしていて、ドアの話をするのはおかしい!』と怒られる。
●例えば、お腹すいたね〜と何気に話し掛けると、『お腹すいたね???』と聞き返され、ピーマン有ったっけ?と呟くと、『ピーマンあったっけ?って?』と同じセリフを聞き返されるので、『絶対に聞こえているから、聞き返さないでくれる?』と言うと、『聞こえてないから聞き返すんだよ!』と怒り出したり、私の発音が悪いと言われる。
●雁坂トンネルは入った所は山梨県、出ると埼玉県。これが許せず、延々口論。
●制服のリボンを無くす、電車の中に体操着を忘れる、時計も無くす。
●前日に叱った内容のことを蒸し返して話したら、『何か怒られたっけ?』と言われ、がっくり来て、説明したが伝わらなかった。前日の事も本人にはピントがずれていたようだ。
●家に曲がる道路で、ふと『ここの曲がり角、曲がったことあったっけ』と聞いてくる。

↑上記のようなことが毎日朝から晩まであり、言った、言わないの応酬で疲れ果ててしまう。
●本人の良い面として、正直な(過ぎる)ところ。中学では、大人しくて優しくて穏やかな雑事の事に捕われない奇特な存在と評価されている。

*********************************************************************************

上原先生からのアドバイス(&解説)

典型的なアスペルガータイプで、相談内容を見るとアスペルガーの教科書のよう。
 相談内容を見ると、想像力の障害が極めて強い。

視覚情報が大雑把で(レタスも白菜も「キャベツ」と言う、など)、プランニング能力(順を追って処理していく力)が弱い。
 皿洗いのエピソード(ついた泡がどれくらい流せばきれいになるかわからない)ということを取っても、見えない概念がわからないという特徴が現れている。
 進学校にいて全般的な能力も高いために、家族や周りは理解しがたく、責めてしまう場面も多くなりがちだが、WISC−Vの特定分野の能力の落ち込みを見ても、本人にとってハンディがあるため、家庭でこれをまず受け止めることが必要。それがうまくいかなければ、口論にならないよう本人と一緒にいる時間を減らすということも考えてもよいかもしれない。
 アスペルガーの子ども達は「腑に落ちる」「腑に落ちない」という言葉をよく使うが、理解できない言葉や現象について現在母親と口論になったり、悪循環に陥っている様子が見られるので、子どもへの解説者として第三者の介入が望ましい。
 子どもに解説をしてくれる第三者の条件として、「感情を交えないこと」「当たり前のことを筋道を立てて説明できること」の二つが望ましい。





アドバイザー:上原芳枝先生プロフィール

埼玉大学大学院教育学科研究科障害児教育専攻修了
〔小学校・中学校・高等学校・養護学校教員免許所持〕
障害児地域作業所にて指導員として従事。
公立中学校障害児学級での指導を経て、
フリースクール飛翔中等部でLD教育を実践。
ランドマークスクール(アメリカ)にて研修。
埼玉大学非常勤講師   区発達障害児支援検討委員
区学校訪問相談事業講師

特定非営利活動法人 発達支援機関リソースセンターone代表理事

リソースセンターoneホームページ
http://www5b.biglobe.ne.jp/~r-one/