■事例集No.1  小学6年男子 〜算数が苦手、友達にしつこくしてしまう〜   (H17.6.19実施)
                                          (会場:小山市ロブレ6F生涯学習センター)


事例1 小学6年男子(通常学級在籍) 診断名発達性協調運動障害・視覚LD
                       (注:診断名は、事例相談会前に医療機関で受けたものです)

課題(特徴):
【1】
算数の苦手意識が強く、意欲的に取り組めない。足し算・引き算・かけ算の筆算までは何とかできるが二桁以上のわり算になると、頭をかかえてしまう。文章問題ができない。図形も苦手。国語は、読みは何とかできるが漢字が書けない。漢字練習をしても、翌日は覚えているが、しばらくすると忘れてしまう。

【2】
自分の興味が無いことには、なかなか積極的に取り組めない。

【3】
友達にじゃれついたり、大きな声を出したり、しつこくしたりすることがある。現在、学校生活においては個性として受け入れられているので、あまり問題ではないが、中学へ行ってからが心配。(担任談)

【4】
中学に入った後、学習面ではついていくのがやっとであろうと思っている。好きな部活や美術などで、少しでも自信をつけてほしい。子供の問題について、中学へはどのように伝えていけば良いか。(高校は偏差値40位の農業高校を本人も親も考えている。)

【5】
明るく、人を笑わせるのがすき。友達と遊ぶのを楽しみにしている。学校で遊ぶ約束を取りつけてくることが多いが、たまにふられることもある。

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上原先生からのアドバイス(&解説)

【1について】
お子さんの中には、学習が定着しないタイプがいる。
※記憶が定着しない。(記憶の保持ができない)
※お子さんの中のプランニング能力(順を追って処理していく力・処理能力)が弱い。
記憶とプランニング能力が弱いと、何度学習させても学力は伸びない。

少しでも定着させるための工夫として〜
○漢字・・たくさん書かせると「書くだけの作業」に労力が注がれ、肝心の漢字の習得につながらない
     場合がある。見せるだけの方が定着がいい場合もある。
○やるものの優先順位を決める・・何を取って、何を捨てるか。
○定期テストではスタディスキル(戦略・テストの受け方・プランニング)をコーチング。
○まわりの人の発想の転換=定着を望まない。

【2について】
“興味が無いことには取り組めない”ということの裏には、いくつもの原因が考えられる。
「やり方がわからない、または苦手だから投げてしまう」のか、「嫌な気持ちに負けてしまってやらない」(自己コントロールができない)ためなのか、情報と原因の分析が必要。それによって対処も変わってくる。
 全般的に軽度発達障害児には“耐性の弱さ”(自己コントロール)が見られることが多い。
「興味が無くても○○だったら取り組める」などの援助段階を細かく設定し、子どもの現状をふまえてハードルを上げ下げしていくことが大切。

【3について】
目標は対人スキルの獲得だが、友達の嫌がること(唾つけ・顔を近づける・大きな声を出す等)について、自分が意識してしているか、いいか悪いかわかっているかをまず本人に確認する。(自己認知しているかどうかの確認)。「認識」と「対人スキル」は分けて考えた方が良い。
    ↓
・自己コントロールができずわかっているけどやってしまうのか?
※その場合は「やめて」と友達にはっきり言ってもらう。
※外からの刺激(友達から「やめて」と言われるなど)があったら
自分の行為をやめる合図だと考えるように本人に説明する。

・友達が嫌がることをしていることを自分でわからず、周りが自分をどう見ているかが分からない場合
※本人のしている行為で、周りがどう感じ、それがどういう風に本人に帰ってくるのか客観的に順序立てて伝えることが必要。
※その場合の伝え方として、必ずマイナスにならない伝え方を心がける。
「それをやっていると君の良さが伝わらないよ。もったいないよね・・君の良さがわかってもらえないよね・・」
※因果関係が分からないので、自分にどう返ってくるかをわかりやすく話す。(客観的な視点の獲得)

担任談として「学校生活においては個性として受け入れられているので、あまり問題ではないが、中学へ行ってからが心配。」とあるが、“中学へ行ってからが心配”ということは、既に小学校でその芽が見られるということ。「埋没の罪」とも言える状況が学校では往々にしてあり、問題があるにも関わらず、周りに許してもらっているだけ・大目にみてもらっているだけ、という場合もあるので注意が必要。

【4について】
中学へ伝えることとして、中学校の認識としては学習面は最優先課題ではない。ただし、クラスの中にいるだけになってしまうので特に苦手な数学・英語については補習も必要。
社会性の問題について診断名を伝えた方がいいかについて・・先入観をもたれるとマイナス面もある場合もあるのでケースバイケース。
高校選びに関してはテストなどに対して戦略を立て、無意味に点を落とさないようにして行ける高校の選択肢を広げておくことが必要。



アドバイザー:上原芳枝先生プロフィール

埼玉大学大学院教育学科研究科障害児教育専攻修了
〔小学校・中学校・高等学校・養護学校教員免許所持〕
障害児地域作業所にて指導員として従事。
公立中学校障害児学級での指導を経て、
フリースクール飛翔中等部でLD教育を実践。
ランドマークスクール(アメリカ)にて研修。
埼玉大学非常勤講師   区発達障害児支援検討委員
区学校訪問相談事業講師

特定非営利活動法人 発達支援機関リソースセンターone代表理事

リソースセンターoneホームページ
http://www5b.biglobe.ne.jp/~r-one/